ANMELDEN僕は状況を固唾を呑んで見守る。 僕の隣で詩華も僕と同じく、固唾を呑んで状況を見守っていた。 しかし、ついにリポーターの発射したミサイルが、《天使》に対して効果を発揮することはなかった。『くそーッ! なんでッ! なんでなのよーッ!』 リポーターは拳を打ちつけて「計画の失敗」を悔やむ。「どうしてキミたちの汚らわしい武力が我々に対して通用すると思うのか。また我々が油断していたと思うのか。我々は油断などしていない。キミたちの浅はかな計画は、最初からお見通しだ。これまで捨て置いていたのは、そんな計画など、我々にとって取るに足らないものだからだ」 《天使》の表情は変わらない。 冷たい鉄の仮面のように微動だにしていない。 《天使》の声は聞こえるが、その口元が動くこともなかった。 《天使》の存在は揺るがない神のようにそこに在り続けるだけだった。「愚かな人類よ。あなた達は「仏の顔も三度まで」というそうですね。我々は仏ではありません。次もまた許すとは限りませんが、今回は許しましょう。しかし、人類に対して、また罰は与えなければなりません。我々の力を思い知り、二度と愚かな行為を犯さぬよう、十分に注意することです。」 薄っすら開かれていた《天使》の両目が、さらに大きく開かれる。 その両目からは光が溢れ、周囲を眩い光で包んだ。 その光景は神々しさもあった。 光は眩しかったが、温かみを感じたのだ。 しかし───。 次の瞬間、誰もが恐れていた事態が始まった。「うわーッ!」 「きゃあぁぁぁぁぁッ!」 「な、なんだこれはッ!?」 「こ、これはまさか、かつての「《消失12》」のッ!?」 リポート映像の中の若者達から悲鳴があがる。 よく見ると、あの場にいる全員の身体に異変が起き始めていた。「あ、あれは……! 「《穴》」だ!」 僕は悲鳴に近い声をあげる。 リポート映像で見る「戦友」達の全身に、まるで墨汁を振り撒かれたように黒い点の「染み」があらわれる。 そしてその「染み」は、墨汁が布に染み広がるように「戦友」達の身体に無数に広がり始めた。「うわーッ!」 「きゃあぁぁぁぁぁッ!」
ついに発射されてしまった六発の核ミサイル。 僕たちが固唾を呑んで見守るその瞬間も、ミサイルは《天使》に向かって突き進む。 至近距離から発射されたミサイルが《天使》に着弾するのは一瞬だった。 と、思われた。 しかし───。「人類諸君。またしてもこのセリフを言わねばならぬようだ。だからキミたちは不合格なのだ、と」 閉じられていた《天使》の両目が薄っすらと開く。 その瞬間、発射されたミサイルはピタリと動きを止め、空中で停止した。『な、なにッ!? どうしてッ!? 何故なのッ!?』 ミサイルを発射したリポーターが、その光景を目の当たりにして困惑の声をあげる。『きゃぁぁああぁぁぁぁぁッ!』 次の瞬間、動きを封じられたのは六発の核ミサイルだけではなく、リポーターの乗る撮影用の軍用ヘリも、まるで見えない巨大な手に鷲掴みにされたかのように空中で停止する。『そんな馬鹿なッ! ここまで周到に……憎き《天使》に悟られないよう完璧に偽装して、ここまで接近してミサイルを発射したのにッ!』 彼女は気が狂ったようにミサイルの爆破ボタンを押すが、ミサイルがその指令に従うことはなかった。「また失敗してしまうというの……!? また、人類は《天使》に一矢報いることなく、失敗してしまうというの……!? 嫌よ、そんなの……。そんなのは嫌。絶対に嫌。《天使》を殺す。私は絶対に《天使》を殺す。そして《天使》に殺された父の無念を雪ぐの!」 リポーターは、ついには拳を核ミサイルの爆破ボタンに叩きつける。 そして、何度も、何度も拳を叩きつけるが、六発の核ミサイルは、一発さえもその威力を炸裂させることはなかった。「たった一発でいい。たった一発でも爆発すれば、さすがの《天使》も無傷では済まないはず……」 僕は、今にも核ミサイルが爆発するのではないかと緊張しつつ、リポーターのリポート映像を見続ける。「でも、もしそんな事(=核ミサイルがこの場で爆発する)が起ったら、あの場に集まった僕と同じ十六歳の若者達も無事では済まないだろうけど……」 僕はその事が心配で、不憫に思う気持ちもあった。「《天使》に一矢報い
「何か良くない事が起る……!」 そう予感した僕は全身に緊張が走り、汗が吹き出る思いだった。 僕たちは中継映像に釘付けになる。 そして僕たちが見つめる中、《天使》をリポートしていた撮影用の軍用ヘリはさらに機首を巡らし、一直線に《天使》に向かって急降下を始めた。「やめろ! 何をする気だ!」 戦友の誰かが思わず叫んだ。 僕はその戦友が、思わず叫び声を上げる気持ちがよくわかった。 何故なら、今、《天使》に向かって急降下する撮影用の軍用ヘリは、明らかに《天使》をリポートする為に、《天使》の周囲を飛行する様子とは異なっていたからだ。「な、何をする気なんだ……!?」 僕は目を見開き、《天使》に激突しそうな勢いで急降下する撮影用の軍用ヘリに視線が釘付けになった。 激しく揺れる撮影用の軍用ヘリから、リポーターは尚も懸命にリポートを続ける。『皆さまには内緒にしていましたが、私の《派閥》は《戦争》です! 私はこれまで同志(=《戦争》)の《派閥》の人々)と周到に準備をしてきました! ご覧ください! この撮影用の軍用ヘリには核弾頭を搭載したミサイルが六基備わっています! 過去に人類は《天使》を攻撃し、失敗しました! しかし、この至近距離で六発もの核ミサイルを喰らえば、さすがの《天使》も無事でいられるはずがありません!』「か、核爆弾だって!?」 「それも六基も!?」 「ど、どうやってそんな物を用意したんだ!?」 周囲の戦友達が驚きの声を上げる。 それ程までに、リポーターの明かした真意は驚くべき事実だった。「まさか核爆弾を六発も……。あの人達だけの力でこんな準備はできない。《戦争》の《派閥》だけじゃない。国家。それも一つや二つの国じゃない。《天使》を倒したいと思う国家が手を組んで、今この状況を作りだしたんだ……」 僕は自分達の知らない水面下で、こんな作戦が遂行されていた事実に驚く。 そして尚も撮影用の軍用ヘリは急速に《天使》に突き進む。 六発の核爆弾は今にも発射される寸前だった。『ざまあ
『《天使》専任リポーターの梶原です! ご覧ください! 「《巨人の試練》」に挑む若者が続々と、ここ「斜塔」の前に集まっています! すでに千人以上の若者が集結していますが、若者を乗せた軍用ヘリは、この後も途切れることなく続々と到着しており───』 《天使》は現在、イタリアのトスカーナ地方にある「斜塔」で有名なピサにいる。 その斜塔の周辺や、隣接する大聖堂の庭や広場には、僕と同じく「《巨人の試練》」に挑む若者達がひしめき合っていた。『なんという光景でしょう! これ程の若者達がこれから「《巨人の試練》」に挑むべく、異世界に転移させられます! 人類の宝とも言うべき若者達! まだまだ幼く、いたいけなこの子達がこれから命懸けで異世界でのサバイバルに挑むのです!』 リポーターのヘリは上空を旋回しつつ、集結する若者、そして《天使》を映し出す。 僕はその中継映像を眺める。 リポーターのリポートは熱がこもっていて、今日という日(=僕たち十六歳の若者が《天使》の《審判》で異世界に転移させられる日)の特別感が、感情を高ぶらせているのだと察した。「それにしてもこのリポーターは、ずいぶんと興奮しているようだけど……。このリポーターってこんなに気性の激しい人だったっけ?」 僕は毎朝のニュース番組で、このリポーターが届けてくれる《天使》の中継映像を見ていたが、確か「梶原」と呼ばれるこの女性リポーターは落ち着いた印象のリポーターだと思っていたのだ。 多少の違和感は覚えたが、今日という日の特別感もあって、僕はそうした違和感を押し込め、尚も中継映像を眺める。 中継映像で、リポーターを乗せたヘリは《天使》の周囲を旋回し、《天使》と、僕と同じく、今日、今から異世界に転移する若者達を交互に映していた。『皆さん、ご覧ください! 実にいたたまれない光景です! ここに集められた若者達が今から過酷な異世界に転移させられます! 何という事でしょう! このような仕打ちを人類に───そして若者に強いる《天使》に憤りを禁じ得ません!』 僕と同じ十六歳の若者を送り出す家族の思いは、まさにリポーターの言う通りだっただろう。
それより僕は詩華と再会できたことを喜ぶ。 そしてついジロジロと詩華の顔を見渡してしまった。 僕の視線に気付いた詩華が溜息をつく。「もともと隠し通せるつもりはなかったけど、やはりすぐにバレてしまうわね。そうよ。私は国民的アイドルグループの不動のセンター・皆の喜びの探求者ことシーカよ」 そう言って詩華は、いつもテレビや動画、コンサートで披露してくれる「心を覗き見る」ような決めポーズを披露してくれる。 どうやら詩華は、僕が詩華の顔をジロジロと見つめた理由を勘違いしたようだが、それはさておき、僕は感動で打ち震える。「ま、まさか、僕の最推しのアイドル・シーカの「生決めポーズ」を目の前で見られるなんて……!」 たくさんの「課金」をして臨む「握手会」だって、こんなサービスは受けられない。 僕は今自分が、もうこのまま死んでしまっても良いと思える程の喜びに包まれている事を実感した。 しかし、僕が詩華の顔をジロジロと見渡していたのは、僕の最推しのアイドルと間近に接しているからじゃない。 今の詩華は知らないが、別世界の詩華を僕は救い、そして異世界でも一緒にいることを約束した仲だったからだ。「まあ、そのことは今の詩華には絶対に言えない。何故なら、僕が助け、異世界でも一緒にいると約束した詩華は、今、目の前にいる詩華とは別の世界の詩華で、もしこの世界の詩華に言ったとしても理解してもらえず、きっと僕のことを「変な人」と思い、警戒するだろうからね」 そこで僕は別世界での詩華のことは話さず、まるで初めて出会ったかのように振る舞った。「そ、そうか……。やっぱり君がシーカこと詩華だったんだね。そう言えば詩華も僕と同じ十六歳。今回の《天使》の《審判》に参加していてもおかしくないよね」 少しわざとらしいかな?と僕は思ったが、僕のぎこちなさを、詩華は自分のような有名なアイドルと間近で接して緊張しているようだと考えてくれたようだった。「そんなに緊張しないで。大丈夫。今の私はシーカじゃない。あなたと同じ十六歳で、これから一緒に《天使》の《審判》に挑む「戦友」よ」 詩華は僕を安心させようと、優しくニッコリ微笑んでくれる。「ま、眩しい……ッ!」 僕はその天使の
「な、なんだよ、俺の名前がなんだっていうんだ」 軍毅は目に見えて動揺する。 その様子に、僕は軍毅は何か気づいて欲しくない「忌まわしい過去」のような後ろめたさがあるのだと察した。「お、俺なんかより、お前の顔の方こそ見たことがあるぞ。お前は確かアイドルグループの───」 今度は詩華が同様する番だった。「わ、私の顔なんて、ど、どうでもいいでしょう。それより早く装備の点検を終えて列に並びなさいよ。ほら、あなた以外の《戦争》の《派閥》は、もう全員整列しているじゃない」 そう言われて軍毅は、自分が遅れている事に気付くと、小さく舌打ちして「これで終わりじゃなぇからな。お前たちはどうも気に入らねぇ。後でしっかり話をつけてやるからな」と捨て台詞を吐いて大急ぎで自分の《派閥》の後を追った。「今、軍毅は「お前たち」って言ったよね。詩華だけじゃなくて、僕も含んでいるんだ。やっぱりこの世界でも軍毅とは仲良くなれないのかな……」 僕は自分も軍毅に目をつけられ、敵対視されたことに寂しさを覚える。 そんな項垂れる僕の目の前に、詩華が僕の「オリジナル作品(=拳銃とマグライトを合体させたマグライト照明付きハンドガン)」を差し出してくれた。「はい、これ。あなたのでしょ?」「詩華……」 僕は、自分の「オリジナル作品」が帰ってきた喜びもさることながら、こうしてまた詩華と再会できたことを心から嬉しく思った。 また、この世界での僕は、《天使》という巨人が現れて以来、人々はこれまでの日常を過ごすことができず、余裕がなくなり、他人に対して優しくすることができなくなっていた為、近頃、他人に親切にすることも、親切にされることも少なくなっていた。 その為、今、こうして詩華に「親切」にしてもらうことが、相手が詩華であることと、そして久しぶりであることとが相まって、より大きな感動となって僕の胸を打った。「あ、ありがとう。助かったよ。このまま僕の宝物を奪われてしまうのかと心配だったんだ」「いいのよ。だって私たちはこれから一緒に《天使》の《審判》に臨む「戦友」じゃない。本来ならみんなで一致団結して協力しないといけないのに……。何故なら、最初の《|天使《セ